2023年5月の法改正により、2024年4月1日をもって、使用済燃料再処理機構(改正前)の名称が「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」(NuRO)へと改められ、事業者に対して、NuROへの廃炉拠出金の拠出が義務付けられた。本欄では、諸外国の事例を参照しつつ、廃止措置を完遂する上で考慮すべき資金管理上の課題について述べる。
諸外国では、廃止措置の資金を確保するための仕組みは、①内部・一体型、②内部・分離型、③外部・分離型の概ね三種類に大別される。日本では、先述した法改正によって、資金確保の仕組みが、内部・一体型である解体引当金から、事業者がNuROに拠出するという外部・分離型へ移行した。
内部・一体型では、事業者の内部に資金が確保され、使途が必ずしも廃止措置に限定されない。法改正前の日本の他に、原子力発電から撤退する前のドイツでも内部・一体型は採用されていた。
内部・分離型では、事業者の内部に資金が確保されるが、使途は廃止措置に限定される。内部・分離型を採用している国の例としては、フランスが挙げられる。
外部・分離型では、事業者の外部に資金が確保され、事業者ではない外部の主体による管理の下で、使途は廃止措置に限定される。外部・分離型には、廃止措置の目的のみに資金が利用されることが担保されるとともに、万が一、事業者が破綻しても廃止措置のための資金が確実に確保されるという特徴がある。こうした特徴を踏まえて、内部・一体型から外部・分離型に移行した国の例として、米国やスウェーデンが挙げられる。
原子力発電を利用している先進国では、資金確保先を事業者の内部にするか外部にするかの判断は各国で分かれるものの、分離型が採用されている例が多い。このことから、諸外国では、分離型にすることによって、目的外利用のリスク等に関する課題に対処し、廃止措置の円滑な実施に向けて確実に資金を確保しようとしていることがうかがえる。
日本においても、外部・分離型への移行によって、廃止措置のための資金確保がより確実なものとなることが期待される。
運転中の発電所の廃止措置が終了するのは数十年後のことであり、長期にわたる事業であることに起因する様々な不確実性に備える必要がある。このような不確実性への対処は、法改正後のNuROに関連する詳細な制度設計や制度運用を検討する際の重要な視点の一つとなると考えられる。以下では、将来の不確実性に関する二つの課題を取り上げる。
一つ目は、資金確保の目標額を正確に見通すことができるかという課題である。長期にわたる事業であるがゆえに、廃止措置に必要な総費用の見積もりには必然的に大きな不確実性が伴う。そうした不確実性、特に上振れリスクに予め備えておかなければ、円滑な事業実施に支障をきたしうる。
廃止措置に必要な費用の見積もりに伴う不確実性への対処は、諸外国においても共通の課題である。一般的に、不確実性が伴うことを前提として、諸外国では、費用見積もりが定期的に更新されている。こうすることで、経験の蓄積等による下振れ要因やインフレ等による上振れ要因を随時織り込むことが意図されている。
二つ目は、資金確保目標額に対して、着実な資金管理ができるかという課題である。諸外国では、廃止措置のために蓄積された資金は、廃止措置が終了するまで、金融市場等で運用されるのが一般的である。元本保証型の運用では将来のインフレリスクに対応しきれないと考えられており、廃止措置のための資金の積極的な運用を認めている国も少なくない。損失回避を最優先して元本保証型の運用をするか、ある程度の損失リスクを覚悟して積極的な運用をするかによって、事業者が負担すべき総額は影響を受けることを念頭に置いた検討が求められる。
先日、電力中央研究所が公刊した『電力経済研究No.70』では、米国、英国、スウェーデン、フランスを取り上げ、廃止措置を巡る資金管理に関する研究成果を取りまとめた。ご興味があればご一読いただければ幸いである。
電気新聞 2025年4月9日掲載